清水義範さんの『グローイング・ダウン』を知っていますか?
清水義範さんには『グローイング・ダウン』という短編集があり、短編小説『グローイング・ダウン』は1番はじめに登場します。とても短い小説で面白いから、初めて小説を読む人にいつもおススメしています。
この小説はあまり知られていませんが、隠れた名作です。
今回は、そんな隠れた名作である清水義範『グローイング・ダウン』を紹介します。
隠れた名作!?初めての小説は清水義範『グローイングダウン』な理由
まずはじめに、短編集・グローイング・ダウンとの個人的な出会いから紹介します。
高1で友人に勧められたグローイング・ダウン
『グローイング・ダウン』との出会いは、高校1年生の頃の事でした。当時、確か赤川次郎か何かを読んでいたのかもしれませんが、同級生から「これ、面白いよ」と勧められたのが、清水義範さんの『グローイング・ダウン』なのです。
それで「へえ、そうなんだ。読んでみるよ」みたいな経緯で、何気なく暇つぶし程度に読んでみたのです。
グローイング・ダウンのあらすじ
小説『グローイング・ダウン』は短編集『グローイング・ダウン』の表題作で、冒頭に掲載されています。
自転車で颯爽と風を切り走る高校生の男子が主人公です。
はじめは何の疑いも持たず普通の時間軸の物語として読み始めましたが、次第に「これは普通の物語ではないぞ」と気づきます。
グローイング・ダウンの世界では、時間が逆行していくのです。
なぜか?
その理由も明確で、人間みんなが若返りたいと願ったからでした。その想いが集まり、強いエネルギーになって、時間が巻き戻ってしまう世界、それがグローイング・ダウンなのです。
通常人間は赤ちゃん→老人になって死んでいきますが、グローイング・ダウンの世界では逆に老人→赤ちゃんになってこの世から消えていきます。
グローイング・ダウンが名作の理由
時間が逆行する世界でも、人々が当たり前のようにその世界で生きていることが新鮮です。
SFであってもSFではない、大げさではない、そんな日常風景の描写がリアリティを増しています。
物語のなかにちょっとした恋愛もあって「わたしたちもうすぐ、出会う前に戻るね」「もうすぐ君のことを思い出せなくなる」みたいなセンチメンタルな描写もあります。
グローイング・ダウンはアンチエイジングの成れの果て
「若返っても行きつく先は同じ」というメッセージを受け取った気がしています。
どうせだんだんと記憶をなくして、この世から消えていくのです。
よく年を取るとだんだんと子どもに戻るといいますが、グローイング・ダウンの世界観を知ると、認知症になって忘れていくのと赤ちゃんになって何も知らない状態になるのと、どちらも同じなんだと確信できます。
死んであの世に行くのと生まれる前に戻るのと結果は同じで、何も変わらないのです。下図のような円になります。
だから年老いていく自分を憂いアンチ・エイジングを試みても、どのみち同じなのです。赤ちゃんに戻りたくないなら、若返るより良い年の取り方を考えた方がいいでしょう。
たまに弱気になり美容整形でもしようかなという気分になった時に、グローイング・ダウンの住民が私に語りかけるのです。
「どうせ、同じだよ」と。
まとめ
今回は、清水義範『グローイング・ダウン』を紹介しました。
小説の面白さ、文学の面白さを教えてくれた作品こそが『グローイング・ダウン』で、初めての小説にピッタリな読みやすさも兼ね備えています。グローイング・ダウンは小説の持つ面白さ、可能性、柔軟な発想力などを自然と教えてくれます。
まだ読んでいない方は、是非、読んでみてください。
清水義範さんの作品で一番有名なのは『
この後、面白い小説を探すようになり、太宰治、筒井康隆につながっていきます。