もう何年前になるか。文学フリマで、こう聞かれた。
「僕はノンフィクションしか読んでいません。わざわざ嘘だとわかっている小説(フィクション)を読む理由がわかりません。なんでアナタはわざわざウソを書くんですか?」
気真面目そうな青年だった。もう何年も前の出来事だから正確には思い出せないが、メガネで長身で頬がこけていて髪はボサボサだった気がする。
「フィクションもノンフィクションも同じようなもんだよ。どっちも嘘だし、どっちも本当のことだよ」
何となく、そんな風に答えたような気がする。
すると生真面目な青年は納得がいかないようで、さらに問い詰めてきた。
「だとしたら、フィクションとノンフィクションの違いは何ですか?」
その質問に答えられなかった。
「何だろうね…」
あれから何年たったか。そのことをずっと頭の片隅で考えていた。
ようやく答えらしい答えが分かった気がする。
フィクションとノンフィクションの違い
結論としては、こうだ。
フィクションとは、本当のことだ。
ノンフィクションとは、嘘のことだ。
考えた結果、常識とは逆の答えが出た。
説明する。
フィクションとは
フィクションは、本当の話だからこそ「これは嘘だけど」と前置きしてから話をはじめる。
たとえば殺人を犯していたとしよう。ノンフィクションで「わたしは人を殺しました」とは書けない。しかし、誰かに、この罪を告白したい気持ちが高まる。
すると、どうする?
フィクション(小説)として、人を殺した話を書くしかなくなるだろう。
それが、小説(フィクション)だ。
ノンフィクションとは
では、ノンフィクションとは、何であるか?
嘘の話をもっともらしく話す為に「これは本当にあった話なんですが」と前置きするのが、ノンフィクションだ。つまり、まるっきりの嘘だから、「本当の話だ」と前置きしないと誰も信じない程度のモノを、ノンフィクションという。ただ「事実だ」「本当の話だ」と前置きがあるから、それっぽく見えるだけ。
まとめ
フィクションとノンフィクションの違いは、常識とは逆だ。
フィクションは本当で、ノンフィクションは嘘だ。
詐欺師は、自分のことを「私は詐欺師です」と言わない。「私は、これから嘘を言います」とは言わない。本当の話だと言って、人を騙すのが常套手段だ。それが、このことの証明だ。
この答えを導き出すのに、何年かかったことか。生真面目な青年よ。フィクションとノンフィクションの違いは、こういうことだったよ。待たせたね。