北野武は、1989年の『その男、凶暴につき』で映画監督としてデビューした。
その後、ヤクザ映画、青春映画、恋愛映画、時代劇、コメディと作品の形を変えながら、30年以上にわたって映画を撮り続けている。
ここでは北野武が監督した長編作品を、公開順に出演者と簡単なあらすじを添えて紹介する。
※AmazonではDVD・Blu-ray・配信など、作品によって取り扱い形態が異なる。
- 1989年『その男、凶暴につき』
- 1990年『3-4X10月』
- 1991年『あの夏、いちばん静かな海。』
- 1993年『ソナチネ』
- 1995年『みんな〜やってるか!』
- 1996年『キッズ・リターン』
- 1997年『HANA-BI』
- 1999年『菊次郎の夏』
- 2001年『BROTHER』
- 2002年『Dolls』
- 2003年『座頭市』
- 2005年『TAKESHIS’』
- 2007年『監督・ばんざい!』
- 2008年『アキレスと亀』
- 2010年『アウトレイジ』
- 2012年『アウトレイジ ビヨンド』
- 2015年『龍三と七人の子分たち』
- 2017年『アウトレイジ 最終章』
- 2023年『首』
- 2025年『Broken Rage』
- 番外編 2007年『素晴らしき休日』
- 北野武の映画は一本ずつ見ると違う映画に見える
1989年『その男、凶暴につき』
主な出演者:ビートたけし、白竜、川上麻衣子、佐野史郎、芦川誠
北野武の映画監督デビュー作。
ビートたけし演じる我妻は、暴力的で常識外れの刑事である。麻薬事件を追ううち、警察内部と暴力団をつなぐ暗い世界へ踏み込んでいく。
後の北野映画につながる「突然訪れる暴力」と「奇妙な静けさ」は、すでにこの作品に現れている。
1990年『3-4X10月』
主な出演者:小野昌彦、石田ゆり子、ビートたけし、井口薫仁、飯塚実
ガソリンスタンドで働く青年がヤクザとのトラブルに巻き込まれ、仲間とともに沖縄へ向かう。
そこで出会うのが、ビートたけし演じる危険なヤクザ・上原である。
北野武が初めて脚本も手がけた作品で、『その男、凶暴につき』以上に北野映画独特の間と乾いた暴力が前面に出ている。
1991年『あの夏、いちばん静かな海。』
主な出演者:真木蔵人、大島弘子、河原さぶ
聴覚障害のある青年・茂が、捨てられていたサーフボードを拾ったことからサーフィンに魅了されていく。
恋人の貴子は、その姿を静かに見守る。
セリフを極端に抑え、海と人物の動きだけで感情を描いた作品である。暴力映画だけでは説明できない北野武の映画世界を決定づけた一本でもある。
1993年『ソナチネ』
主な出演者:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、寺島進、勝村政信
東京のヤクザ村川は、組同士の抗争を収めるため沖縄へ向かう。
しかし現地で待っていたのは、仕組まれた抗争だった。
死を身近に感じながら、海辺で子供のように遊ぶヤクザたち。その牧歌的な時間と突然の暴力との落差が強烈な作品であり、海外で北野武の評価を高めた代表作の一つである。
1995年『みんな〜やってるか!』
主な出演者:ダンカン、ビートたけし、左時枝、小林昭二
「女性にモテたい」という欲望だけで突っ走る男を主人公にしたナンセンスコメディ。
車、銀行強盗、透明人間、怪獣映画など、話はどんどん脱線していく。
それまで「芸術映画の監督」として評価され始めていた北野武が、その評価そのものを自分で破壊するように撮った怪作である。
1996年『キッズ・リターン』
主な出演者:金子賢、安藤政信、森本レオ、石橋凌、寺島進
高校生活からはみ出したシンジとマサル。
シンジはボクシングへ、マサルはヤクザの世界へ進んでいく。
一度はそれぞれの世界で頭角を現す二人だが、人生は思い通りには進まない。
北野武作品のなかでも特に青春映画として評価の高い一本である。
1997年『HANA-BI』
主な出演者:ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進
刑事の西は、重い病を抱えた妻と、捜査中に負傷した同僚を抱えている。
やがて警察を辞め、妻との最後の旅へ向かうが、その背後には借金とヤクザの影が迫る。
暴力、死、夫婦の愛、絵画、沈黙。
北野映画を構成する要素が一つの作品に凝縮され、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した代表作である。
1999年『菊次郎の夏』
主な出演者:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子
母親に会うため旅に出る少年・正男と、付き添うことになった無責任な中年男・菊次郎。
二人は旅先で奇妙な人々と出会っていく。
ヤクザや刑事を描いてきた北野武が撮ったロードムービーであり、久石譲による「Summer」も広く知られている。
2001年『BROTHER』
主な出演者:ビートたけし、オマー・エップス、真木蔵人、加藤雅也、寺島進
日本で居場所を失ったヤクザの山本が、弟を頼ってアメリカへ渡る。
ロサンゼルスで若者たちを率いるようになった山本は、やがて巨大な犯罪組織との抗争へ突入していく。
日本のヤクザ映画をそのままアメリカへ持ち込んだような異色作で、北野武の国際進出を象徴する一本でもある。
2002年『Dolls』
主な出演者:菅野美穂、西島秀俊、三橋達也、松原智恵子、深田恭子
赤い紐で身体をつないだ男女が四季の日本を歩き続ける。
その物語に、老いたヤクザの恋、人気アイドルとファンの物語が重なっていく。
近松門左衛門の人形浄瑠璃をモチーフに、「愛すること」が時として狂気にもなる姿を描いた異色の恋愛映画である。
2003年『座頭市』
主な出演者:ビートたけし、浅野忠信、夏川結衣、大楠道代、橘大五郎
金髪で盲目の按摩・市が、とある宿場町へやってくる。
その町はヤクザに支配されており、市は圧倒的な居合の腕で争いに巻き込まれていく。
勝新太郎で知られる「座頭市」を北野武流に再構築した娯楽時代劇で、ヴェネチア国際映画祭では銀獅子賞を受賞した。
2005年『TAKESHIS’』
主な出演者:ビートたけし、京野ことみ、岸本加世子、大杉漣、寺島進
成功した芸能人「ビートたけし」と、彼と同じ顔をした売れない役者「北野」。
現実と夢、映画と芸能界が入り乱れ、やがてどこまでが現実なのか分からなくなっていく。
北野武自身を題材にした自己解体的な作品で、ここから『監督・ばんざい!』『アキレスと亀』へと続く一連の作品が始まる。
2007年『監督・ばんざい!』
主な出演者:ビートたけし、江守徹、岸本加世子、鈴木杏、吉行和子
「もうギャング映画を撮らない」と宣言した映画監督キタノが、売れる映画を作ろうと悪戦苦闘する。
小津安二郎風の人情劇、恋愛映画、ホラー、時代劇、SFなど、さまざまなジャンルに挑戦するもののことごとく失敗する。
映画監督・北野武が「北野映画」というブランドそのものを笑い飛ばしたメタ映画である。
2008年『アキレスと亀』
主な出演者:ビートたけし、樋口可南子、柳憂怜、麻生久美子、中尾彬
画家になることだけを信じて生き続ける男・真知寿。
才能が認められないまま年月は過ぎていくが、それでも彼は妻とともに作品を作り続ける。
「才能とは何か」「芸術を続けることに意味はあるのか」を、滑稽さと残酷さの双方から描いた作品である。
2010年『アウトレイジ』
主な出演者:ビートたけし、椎名桔平、加瀬亮、三浦友和、國村隼、小日向文世
巨大暴力団・山王会内部の力関係から、小さなヤクザ組織同士の抗争が仕組まれていく。
命令する者、その命令を別の者へ押し付ける者、さらにその下で動く者。
暴力団を「組織」として描いた作品であり、登場人物のほぼ全員が悪人という構造が大きな話題となった。
2012年『アウトレイジ ビヨンド』
主な出演者:ビートたけし、西田敏行、三浦友和、加瀬亮、小日向文世
前作から5年後。
山王会は巨大組織へ成長していたが、その勢力拡大を警察が危険視する。
そこで警察は、死んだと思われていた大友を利用し、山王会と関西の花菱会を衝突させようとする。
ヤクザだけでなく警察まで含め、「誰が誰を利用するのか」という権力ゲームへスケールを広げた続編である。
2015年『龍三と七人の子分たち』
主な出演者:藤竜也、近藤正臣、中尾彬、品川徹、樋浦勉
引退して居場所を失った元ヤクザの龍三。
若者による詐欺集団に腹を立て、昔の仲間たちを集めて「一龍会」を結成する。
かつては恐れられた老人たちが現代社会で暴れ回る、ヤクザ映画と老人コメディを組み合わせた作品である。
2017年『アウトレイジ 最終章』
主な出演者:ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊
山王会と花菱会の抗争を生き延びた大友は、韓国でフィクサー張会長のもとに身を寄せていた。
しかし日本の花菱会との小さなトラブルをきっかけに、新たな抗争が始まる。
『アウトレイジ』三部作の完結編であり、大友という男の物語にも決着がつけられる。
2023年『首』
主な出演者:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、浅野忠信、大森南朋
舞台は戦国時代。
織田信長、羽柴秀吉、明智光秀、荒木村重らの欲望と裏切りが絡み合い、本能寺の変へ向かっていく。
北野武が長年構想してきた戦国映画であり、英雄たちを美化するのではなく、出世欲、性欲、嫉妬、恐怖に動かされる人間として描いている。北野自身は羽柴秀吉を演じた。
2025年『Broken Rage』
主な出演者:ビートたけし、浅野忠信、大森南朋、中村獅童、白竜
殺し屋「ねずみ」は警察に逮捕され、麻薬組織へ潜入することを要求される。
作品の前半では、この物語がシリアスな犯罪映画として展開する。
ところが後半では、ほぼ同じ物語がコメディとしてもう一度繰り返される。
北野武自身が長年作ってきた暴力映画を、自らパロディとして破壊する実験的作品である。
Amazon MGMスタジオ製作のAmazon Original映画で、2025年2月14日からPrime Videoで世界配信された。
Amazon Prime Videoで『Broken Rage』を見る
番外編 2007年『素晴らしき休日』
2007年のオムニバス映画『それぞれのシネマ』で北野武が監督した短編。
世界各国の映画監督が「映画館」をテーマに短編を制作した企画で、北野武は『素晴らしき休日』を担当している。
長編監督作品とは性格が異なるため、本記事では番外編として扱った。
北野武の映画は一本ずつ見ると違う映画に見える
『その男、凶暴につき』『ソナチネ』『アウトレイジ』には暴力がある。
『あの夏、いちばん静かな海。』『菊次郎の夏』には、ほとんど正反対の静かな時間が流れている。
『TAKESHIS’』『監督・ばんざい!』『アキレスと亀』では、北野武自身が「北野武という映画監督」を壊そうとしている。
そして『Broken Rage』では、自分が作り上げてきた暴力映画という形式そのものを笑いに変えた。
こうして公開順に並べると、北野武は同じ映画を繰り返し作ってきた監督ではないことが分かる。
むしろ一つのスタイルが完成すると、自分でそれを壊し、また別の映画へ向かう。
北野武の監督作品を時系列で見る面白さは、その変化そのものにある。
この記事で紹介した北野武監督作品は、Amazonストアの専用ページにもまとめている。
北野武の映画をたどると、その作品には笑い、暴力、死、照れ、そして既成の価値観から少し外れた視線が一貫して流れている。
その原点を考えるなら、映画監督になる以前の「ビートたけし」を見ておく必要がある。浅草での修業、ツービート、漫才ブーム、フライデー襲撃事件、そしてバイク事故まで。なぜ彼が単なる人気芸人ではなく、一つの時代を象徴する存在になったのかを別記事でたどっている。


