チーマーを知るための本・漫画・作品案内|渋谷に不良がいた時代を読む

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チーマーという言葉には、どこか古びた響きがある。

いま聞けば、平成初期のテレビ番組や週刊誌の中に閉じ込められた死語のようにも思える。

しかし、チーマーはただの流行語ではなかった。

暴走族が弱まり、ヤンキー文化が地方や郊外の記号になっていく一方で、東京の街中には別のタイプの不良が現れた。

彼らは特攻服ではなく、アメカジやストリートファッションを身につけていた。

集会ではなく、センター街に集まった。

族ではなく、チームを名乗った。

つまりチーマーとは、暴走族以後の都市型不良だった。

ここでは、チーマーそのものを知るための資料から、90年代の渋谷、カラーギャング、ストリートギャング的想像力までをたどる作品を紹介する。

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チーマーとは何だったのか

チーマーは、主に1980年代後半から1990年代にかけて使われた言葉である。街で徒党を組む少年たちが、自分たちのグループを「チーム」と呼んだことから、チーマーと呼ばれるようになった。特に渋谷センター街は、その象徴的な舞台として語られることが多い。

重要なのは、チーマーが単なる暴力集団ではなく、ファッション、遊び、パーティ、ストリート文化と結びついていたことだ。

暴走族がバイクと地元を軸にした不良文化だったとすれば、チーマーは電車で街に集まり、服装と仲間の名前で自分たちを示した。そこにはバブル期の都市の浮かれた空気もあれば、若者が自分たちの居場所を街中に作ろうとする切実さもあった。

しかし、その遊びの集団はやがて暴力や抗争、パー券売買、恐喝、他グループとの衝突と結びついていく。渋谷という街は、流行の発信地であると同時に、夜になると別の顔を見せる場所でもあった。

関連記事:チーマーとは何だったのか

90年代の渋谷を描いた小説『95』

早見和真の『95』は、1995年の渋谷を舞台にした青春小説である。地下鉄サリン事件後の空気、17歳の少年たち、渋谷という街、そして時代の不穏さが重ねられている。日本推理作家協会賞受賞後の作品としても紹介されている。

90年代半ばの渋谷に漂っていた「若者のざわつき」を読む作品として置きたい。

この小説は、不良ではなく、平凡な高校生が主人公だ。

95年、渋谷。平凡な高校生だった秋久は、縁のなかった同級生グループに仲間入りさせられ、刺激的な毎日を過ごすようになる。

1995年という年は、日本社会にとって特別な年だった。

阪神・淡路大震災があり、地下鉄サリン事件があり、戦後の安定した社会像に大きな亀裂が入った。その一方で、渋谷には高校生、チーマー、コギャル、援助交際、スニーカー、クラブ、ストリートファッションが混ざり合っていた。

街は明るい。
しかし、その明るさの下に暗い水路が流れている。

この小説は、Audibleがあり、心地よい声音で聞くことが出来る。

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『95』は、当時の渋谷の水音を青春小説の形で聞かせる作品である。

関連書籍:小説『95』
関連音源:Audible版『95』

暴力と思想の変種として読む『凶気の桜』

ヒキタクニオの『凶気の桜』も、チーマーそのものを知るためというより、90年代から2000年代初頭にかけての都市の暴力を読む作品として外せない。

物語の舞台は渋谷。若きナショナリストの結社が登場し、街の若者たちを襲撃する。作品紹介でも、渋谷に若きナショナリストの結社が誕生する小説として説明されている。

ここにあるのは、チーマー文化そのものではない。

むしろ、チーマー的な都市の暴力が、思想めいたものをまとったときに何が起こるのか、という変種である。

暴力は、最初から思想を持っているわけではない。
しかし、空虚な暴力ほど、あとから思想を欲しがる。

「自分たちは何者なのか」
「なぜこの街にいるのか」
「なぜ殴るのか」

その問いに、ナショナリズムや浄化の言葉が貼りつくと、暴力は急に大義を持ったような顔をし始める。『凶気の桜』の怖さは、まさにそこにある。

チーマーの棚にこの作品を置くなら、「都市型不良のその後に現れる、思想化した暴力」として読むのがよい。

映画版では、窪塚洋介が主演を務めて、見事なまでに凶気を演じている。

関連書籍:小説『凶気の桜』
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チーマーの後を読むなら『池袋ウエストゲートパーク』

石田衣良の『池袋ウエストゲートパーク』は、チーマーそのものではなく、チーマー後の都市型若者文化を読む作品である。

第1篇はオール讀物推理小説新人賞を受賞し、1998年以降シリーズとして刊行された。のちにドラマ、漫画、アニメなどにも展開され、池袋という街のイメージを強く作った作品でもある。

ここで中心になるのは、渋谷ではなく池袋である。

そして、チーマーというよりカラーギャングの時代である。

渋谷のチーマー文化が薄れていったあと、若者の集団性は消えたわけではなかった。場所を変え、名前を変え、色をまとい、池袋や新宿の物語として語られるようになった。

『池袋ウエストゲートパーク』の面白さは、不良やギャングを単に怖い存在として描くのではなく、街の生態系の一部として描いたところにある。

警察がいる。
ヤクザがいる。
不良少年がいる。
風俗がある。
家出少女がいる。
普通の商店街がある。

その全部が同じ街にある。

チーマーを読むなら、その次の時代として『池袋ウエストゲートパーク』を置くと、都市型不良文化の流れが見えやすくなる。

ドラマ版では、窪塚洋介と長瀬智也が演じて話題になった。アニメ版も動画配信されている。

関連書籍:小説『池袋ウエストゲートパーク』
関連DVD:ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』
動画配信:ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』
動画配信:アニメ『池袋ウエストゲートパーク』

漫画で読むなら『TOKYO TRIBE』

井上三太の『TOKYO TRIBE』は、チーマーをそのまま描いた作品ではない。しかし、東京のストリートギャング的想像力を読むなら、棚に置きたい漫画である。

『TOKYO TRIBE』シリーズは、1990年代から2010年代前半にかけて展開された作品として紹介され、ストリートギャングたちの抗争を中心に描いている。

現実のチーマーを知る資料ではない。
しかし、現実のストリート文化が漫画の中で神話化されるとどうなるのかがわかる。

チーマー、カラーギャング、ヒップホップ、スケート、クラブ、タトゥー、暴力、仲間意識。そうした断片が、現実そのものではなく、漫画的な東京の部族戦争として再構成されている。

つまり『TOKYO TRIBE』は、資料ではなく、都市の悪夢である。

実際のチーマーを知るために読むのではなく、チーマー以後のストリート文化がどのようにイメージ化され、物語化され、消費されていったのかを読む作品として置きたい。

『TOKYO TRIBE』は電子書籍版Kindle Unlimitedで、0円で読める。

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チーマーは半グレの前史なのか

チーマーを語るとき、どうしても関東連合や半グレの前史として見たくなる。

それは間違いではない。

実際、暴走族、チーマー、カラーギャング、関東連合、半グレという流れで見れば、日本の都市型不良文化の変化はかなり整理しやすい。

しかし、チーマーを単なる半グレの前段階として片づけてしまうと、見落とすものがある。

チーマーには、まだバブル期の遊びの匂いがあった。
ファッションがあった。
パーティがあった。
街に出ること自体がイベントだった。

もちろん、そこに暴力もあった。
恐喝も抗争もあった。
被害者もいた。

だが、チーマーは最初から反社会的ビジネスとして組織化された存在ではなかった。むしろ、遊びと暴力の境界線が曖昧だった時代の産物である。

その曖昧さが、のちに危うさを増していく。

チームは、仲間である。
チームは、看板である。
チームは、縄張りである。
チームは、暴力の増幅装置でもある。

個人なら引き返せる場所で、集団は引き返せなくなる。そこにチーマー文化の怖さがある。

関連記事:チーマーはなぜ関東連合と接続したのか

まとめ

チーマーは、いまでは古い言葉である。

しかし、その古さの中には、現在につながるものが残っている。

街に集まる若者。
仲間の名前を背負う感覚。
ファッションで自分を示すこと。
集団になることで強くなったように感じる錯覚。
暴力が遊びの延長に置かれてしまう危うさ。

それらは、形を変えながら、いまの時代にも残っている。

チーマーを読むことは、平成初期の渋谷を懐かしむことではない。

暴走族の時代が終わり、半グレの時代が来るまでのあいだに、都市の路上で何が起きていたのかを見ることである。

渋谷のセンター街にいた少年たちは、もうそこにはいない。

だが、彼らが残した影は、カラーギャング、ストリート漫画、半グレ、格闘技、ヒップホップ、そして都市の不良幻想の中に、いまも薄く残っている。

チーマーとは、消えた不良文化ではない。

日本の都市が、若者をどう集め、どう熱狂させ、どう壊していったのかを示す、ひとつの断面なのである。

最後に、この記事で紹介した作品群をもう一度整理しておく。


関連資料一覧】

関連書籍:小説『95』
関連音源:Audible版『95』

関連書籍:小説『凶気の桜』
関連DVD:映画『凶気の桜』
動画配信:映画『凶気の桜』

関連書籍:『TOKYO TRIBE』


渋谷チーマーの全体像については、こちらの記事で詳しく整理している。

数ある渋谷のチームのなかで、一躍有名になっていったのが宇田川警備隊だった。

宇田川警備隊の6代目リーダーが、現在YouTubeで活動する小山恵吾である。

渋谷チーマーの後期に一大勢力を築いたTop-Jには、井上勇がいた。

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